ソレは突然家の前に現れた。
天気予報が見事にはずれ、
午後から急に降り出した雨にもちろん傘など持ち合わせているはずもなく、
雨に濡れた政宗がマンションのエントランスに駆け込んだ時だった。
突然の雨に内心舌打ちをしながら視線を下に落とすと、
政宗は足元のあるモノに気付いた。
政宗の足元には茶色の小さなものが丸まっていた。
毛玉、のようなソレは濡れ雑巾のような姿で小刻みに震えていた。
「・・・・・・何だぁコレ・・・」
突然訪れた未知のモノに唖然としながらも、政宗は毛玉をおそるおそる指先でつまみ上げた。
泥に汚れて水の滴る毛玉は、よく見ると耳と尾が付いている。
「猫・・・・・・いや犬か?」
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未知のモノはどうやら動物であるらしいのだが、
泥に汚れた毛玉からはそれが何かはよく分からない。
おまけに動物のようでありながらも、泥の下には人間の子供のような小さな顔が覗いている。
まさに未知の生物といったようなソレを、更に近くで見ようと政宗は毛玉に顔を近づけた。
それと同じくして毛玉が微かに体を震わせた、その瞬間。
くしゅんっ!!
毛玉のくしゃみが政宗の顔を思い切り直撃した。
「・・・・・・ほんっとに今日はツイてねぇ・・・・」
* * * *
数十分後、泥を洗い落とされた毛玉は、
きれいに洗濯された服を着てソファに小さく収まっていた。
「へーえ、竜の旦那も珍しいことするじゃない?」
どうやら子犬であるらしいソレを、マンションの隣人である佐助がもの珍しそうに眺める。
「…しょうがねえだろ。成り行きでこうなっちまったんだから」
濡れた髪を拭きながら出てきた政宗が奥から出てくる。
道に落ちていた子犬を拾うなど、
我ながら柄ではないと思いながらも、ここまで連れてきてしまった自分が不思議だった。
当の子犬はソファに腰掛けながら部屋のあちこちを珍しそうに見上げている。
紅い服を着た茶色い毛並みの子犬は、耳と尻尾さえなければ小さな子供と変わりない程だった。
―本当になんてものを拾って来たのだろう―
そう思うと嘆息せずにはいられない。
「んで?この子どうするの?」
ソファの小犬を膝の上に抱き上げて佐助が尋ねる。
子犬は抱き上げられて嬉しいのか、その茶色の尻尾を小さく振った。
「それがわからないからアンタを呼んだんじゃねぇか」
「旦那が飼っちゃえばいいんじゃないの?」
「おいおい、簡単に言ってくれるけどよ・・・・」
サラリと言ってのけた佐助に政宗は大げさに溜息をつく。
成り行きで拾ったはいいものの、その後どうしようかなど政宗の考えにはなかった。
飼うという選択肢を取るにしても、生き物など今まで飼ったこともない政宗には子犬をどう扱っていいのかもわからない。
ましてや子犬を飼うなど、今は留守の同居人は何と言うだろうか。
「いーじゃないの。別にペット禁止でもないわけだしさ、このマンション」
「・・・・・・・・・」
問題はそれだけじゃないと、小言の多い同居人を脳裏にちらつかせながら佐助の膝の子犬を見る。
子犬は政宗の視線に気づくいたのか嬉しげに尻尾を振って応えた。
小さな顔の大きな瞳は政宗の方をじいっと見ている。
それを見た佐助は意味ありげな笑みを浮かべると、抱えていた子犬を床に下ろした。
「まぁ色々難しいこともあるだろうけどソレは何とかなるって、それに――」
佐助が子犬の方を見やる。
子犬は尻尾を振りながら、トコトコと歩いて政宗の元にたどり着き、その足にしがみ付いた。
小さな前足でしがみ付く子犬は、その大きな瞳でまっすぐに政宗を見上げている。
「その子が旦那と一緒にいたがってるみたいだし…さ?」
「・・・・・」
「それを引き離すっていうのも可哀相じゃない?」
これ以上ない理由に、佐助は飄々とした笑いを政宗に投げる。
自分が子犬を飼うなどとは思いもよらなかったが、
足元から自分を見上げる子犬の瞳を見てしまっては、政宗も最早逃れようがない。
成り行きで拾ってきた子犬が数分のうちに我が家の飼い犬となることとなってしまった。
「やれやれ面倒なモン拾っちまったぜ・・・」
未知との遭遇は思いもよらない方向へ動き出した。
*Episode2へ続く*
なんと続いてしまうらしいですよ。
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