夜中に降りだした雪は一夜のうちに町中を白く染め、
朝にはすっかり姿を一変させていた。


そんな冬真っ盛りの朝。



「キャン!!」



一際大きな声を幸村があげる。
その視線に映っているのは一面の銀世界。
朝起きて一番に視界に飛び込んだ、昨日までとはまるで違う風景に、
せわしなく尻尾を動かしては、幸村は窓際を行ったり来たりしていた。



「すごいもんだろ幸村、これが雪ってやつだ」



「ゆき?」



左右の耳を上下させながら幸村が問いかける。
子犬である幸村にとってはこれが初めて目にする「雪」というものだった。



「あの白いの全部がな、空から降ってきたんだぜ」



「ゆき!」



窓から見える風景を指差して政宗が答える。
その言葉に一声叫んで尻尾を振ると、
幸村は小さな体で懸命に背伸びして窓から下を覗いた。

目の前に広がる景色、
部屋の窓から見下ろすその目が輝くのを見て、
思わず政宗の表情も緩む。



「ま、説明よりも実際に見たほうが早そうだな」



「?」



窓から向きを変えソファにかかったコートに手をかける政宗に、
幸村が首をかしげながら着いていく。



「その雪ってやつを拝みに行くぜ、幸村」



「…!しょうち!!」



そう言い振り向いた政宗に、幸村の目が更に輝きを増した。




***




「おーよく積もってんな」



サクっと雪を踏みしめる音に続く政宗の声。
公園の入口に立つ政宗と幸村の前には一面真っ白な景色が広がっていた。

木も遊具も何もかもが白く染まった公園。
いつもとは違う雰囲気の公園に、
政宗の腕に抱えられた幸村がキョロキョロと辺りを見回した。



「ほら、早速遊んでみろよ幸村」



そう言うと政宗は、ソワソワと様子を窺う幸村をそっと下へと降ろした。
降りた足先に当たる冷たい雪。
初めて感じる感覚に一度は躊躇を見せた幸村だったが、
恐る恐る一歩、もう一歩と雪を踏む度に、
背後で尻尾が大きく揺れ出す。
次第に後ろ足だけでは足りずに前足で雪を掴むと、
手にした雪に幸村の興奮は頂点に達した。



「犬は喜び駆け回る、ってのは本当みたいだな」



まるで童謡の歌詞のようにはしゃぐ幸村に、
政宗が思わず呟いた。




***




「あれ?奇遇だねお二人さん!」



そんな政宗と幸村の背後から、
ふいに明るい声が響いたのはそのすぐ後のこと。

声のほうを振り返ると、
そこには派手な身なりの男、前田家の甥っ子こと慶次が立っていた。



「よーお幸村!元気してたかい?」



「けいじ!」



「誰かと思ったらアンタかよ…」



思わず政宗の声に不機嫌な色が混じる。
以前よりこの風来坊とは顔なじみな政宗だったが、
幸村がいわゆる「初めてのおつかい」をした時に親バカなところを見られたせいもあり、
こうして顔をあわせるのは何だか躊躇いがあった。



「で、何してんだアンタは。こんな朝早くから」



「何って政宗と同じだよ、暇だから雪見ついでに散歩に来たのさ」



「shit、ニートのお前と一緒にするなよな…」



それにこの風来坊は無意識なのかそうじゃないのか、
時折政宗を苛つかせるところがある。
それも躊躇いの理由の一つでもあったが、
慶次の憎めない性格のせいか、結局のところは気の合う友人ではあったが。



「お、幸村何作ってんだ?俺も混ぜてくれよ!」



「しょうち!」



「人の話聞いてないなアンタ…」



そんな政宗を置いて、幸村と慶次は既に雪遊びを満喫していた。
相変わらずな慶次にため息をつく政宗だったが、
それは冬の空気の中では人知れず白い息に変わるだけだった。



「よっし、これで完成だな!」



「かんせい!」



ふいに遠くの方で高い歓声があがる。
政宗がその声に振り返ると、
歓声を合図に幸村が政宗の方へと駆けてくるのが見えた、
しかもその手には何かを抱えて。



「幸村…何だそれ」



「ましゃむね!」



政宗の問いに、幸村が得意気に腕の中のものを差し出す。
幸村の勢いにつられるようにして、政宗はその中を覗き込んだ。



「雪ダルマ…?」



思わず語尾に疑問符を付けた返事が返る。
2つの雪玉が重なった物体。
幸村の差し出してきたそれは、
不恰好ではあったが確かに雪ダルマのようだった。



「そう、雪ダルマだよ!しかも特別なね」



「特別?」



横から入ってきた慶次の言葉に、
政宗は再び雪ダルマに目を落とす。

手には小枝、
目は小石というシンプルな作りの雪ダルマ。
しかしその片方の目は小石ではなく、
代わりに大きな木の葉が貼り付けてあった。



「もしかしなくてもコレは俺か…?」



どことなく似た特徴を持つ雪ダルマにもしかして、と尋ねる政宗。



「ましゃむね!」



政宗の問いに幸村が小さく跳ねながら答える。
尻尾を大いに振るって喜ぶ様子を見ると、どうやら正解であったらしい。



「そうか。良く出来てるぜ、Thanks幸村」



小さな雪ダルマを抱えた、小さな幸村。
そんな幸村の頭を、政宗は掌でクシャっと撫でた。
政宗を模したという雪ダルマはお世辞にも良い出来とは言えなかったが、
それを懸命に作った幸村の気持ちが何よりも嬉しかった。



「政宗、顔がニヤけそうだよ?」



ふいに割って入る、からかうような慶次の声。


次の瞬間には政宗の照れ隠しの一撃が、
陽の差し込む銀世界の公園に響いた。






*Episode12へ続く?*

冬の時期にはアップできるといいなーと思ってた話です。
いやぁ間に合ってよかった!(笑)←


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