太陽が柔らかに降り注ぐ午後。
その陽気に街を行く人の足取りも軽くなる中、この男も例外ではない。
そんな温かな日差しに誘われて、家康は外へと繰り出していた。
今日のような穏やかな陽が差す日は、家康の最も好むところだった。
いつもの散歩コースを行けば自然と歩みも軽くなる。
蕾だった花は綻び、
通り過ぎる風が髪を撫でる。
全てが輝くような、そんな午後に家康は胸を弾ませていた。
だが、その穏やかさは突如破られことになる。
「ざんめつぅううう!!!」
「!!!?」
いつものようにタバコ屋の角を曲がった時だった。
辺りを引き裂くような声が響き渡り、
その声に思わず家康は身構える。
何事か起きたのかと思い辺りを見回してはみたものの、しかしそこには何もいない。
「…気のせいか?」
見えない声の主に家康は首をひねる。
もしやこの陽気にあてられた空耳だったのかと考えもしたが、
それは大きな勘違いだった。
敵は正面からではなく、上からやってきた。
「ざんめつぅう!!!」
「うわ…!?」
何か小さな塊が家康にむかって飛びかかる。
家康の頭上高く、
日の光を浴びたその姿は逆光でよく見えなかったが、
まるで銀色の毛玉のようだと家康は思った。
そんな毛玉が身構えた家康の腕に牙をむく。
鍛えあげた家康の腕にはさほどの衝撃ではないものの、
このように突然噛み付かれては、思わず狼狽えてしまう。
いきなりの事態に色々とわからないことはあったが、
まずはこれを腕から離すことが先決だった。
「やれ三成、またやっておるか」
するとどこからともなく聞き覚えのある声が聞こえる。
その声に反応してか、銀色の毛玉の力が少し弱まった。
「大谷殿!?」
「やれ、ぬしは徳川の…」
家康が振り向くと、
その先にはタバコ屋の店主である大谷吉継の姿があった。
全身を包帯で纏った、
人嫌いで有名なこの店主がこうして人前に出るのは稀なことで。
家康自身、普段こうして言葉を交わすことは数えるほどしかなかったが、
その出で立ちは確かに大谷のそれであった。
「三成が世話をかけたようだな、気性が激しいゆえ目を離すとすぐこうなる」
「三成…?」
大谷の言葉に傍らの毛玉に目をやると、
それは耳の尖った猫の姿だった。
そんな家康の視線を感じてか、
三成と呼ばれたその猫は威嚇をするように唸り声をあげる。
「三成、来やれ」
「ぎょうぶ!!」
見かねた大谷が呼ぶと、三成は素直に彼の元へと戻った。
「その猫…三成は大谷殿の猫だったのか」
随分と慣れた様子の三成を見て家康が呟く。
大谷が猫を飼っているとは初耳だったが、
その懐きぶりは確かに飼い猫のようだった。
「さよう…いや、正確には預かっているというのが正しいか」
「……?」
「なに、色々と事情があるということよ」
意味ありげな答えを返す大谷に家康が首を傾げる。
そんな家康を置いて大谷は一人言葉を続けた。
「して徳川、ここで会うたのも何かの縁。一つこの大谷の頼まれ事を聞いてはみぬか?」
「ワシに頼みたい事?」
ふいに話を切り出した大谷に、
家康は顔にこそ出さなかったが驚いていた。
これまでに自分に頼み事などしたことがない大谷が何を頼むというのか、
それが非常に気になって仕方がなかった。
「なに、特段難しい事ではない」
腕の中の三成の頭を撫でながら大谷は答える。
「ぬしに頼んでみるというのも面白いやもしれぬと思うてな」
そう言った大谷の目は、
この状況を大いに楽しんでいるようだったと、
後に家康は語ったという。
*Episode16へ続く?*
家康・三成の馴れ初め(?)と大谷さん登場の回でした^^
大谷さんはどういうポジションの人にしようか悩んだんですが、
あんまり歩き回らなくても良くて着物きてるのが似合いそうな仕事、と思ってタバコ屋になりました(笑)
ちなみに後半に続きますので気長にお待ちくださいませー
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