「ざんめつぅううう!!!」



「落ち着け三成、あまり暴れると危ない!」



昨日までは家康一人だった一室に咆哮が響き渡る。
中では銀色の毛並みをした猫が家康と攻防を繰り広げていた。


遡ること数時間前。
散歩に道中に大谷と会ったことが全ての始まりだった。



「ワシが三成を預かる!?」



大谷から突然持ちかけられた話に、
家康は思わず驚きの声をあげる。



「左様、何か問題でもあるか?」



驚く彼にさも当然とばかりに答える大谷の様子が、
更に家康の動揺を誘う。
普段から何処までが本気かわからぬ物言いをするところが大谷にはあったが、
それは相変わらず健在だった。



「三成はとある者から預かっているのだが――」



おもむろに大谷が口を開く。
その口からは三成が知人の飼い猫であること、
その知人が長く海外へ赴くことになり自分が三成を預かることになったことが語られ、
その話に成程、と家康は内心で頷いていた。

我は病身で世話が行き届かぬ事もあるゆえな、と語る大谷。
その様子から大体の事情は飲み込めたが、
だが一つだけ家康にはまだ腑に落ちぬところがあった。



「事情は分かった、しかし…何故ワシなんだ?」



顔見知りであるとはいえ、
今日いきなり顔を合わせた自分に顔を三成を預けようとするのか、
それが一番家康は気になっていたが。



「決まっておろう、ぬしに預ければ面白くなりそうだからよ」



その答えは実にシンプルだった。
知人の預かり知らぬところで三成を自分に託していいものかと思いはしたが、
そんなことは大谷の中では特に問題はないのだろう。
でなければこんなためらいもなく唐突に事を進めたりなどしない。



「幸い三成もぬしに懐いておるようだしな」



先程の騒ぎの、どこをどう見たらそう見えるのか。
寸でのところで出かかった声を抑えるために、
思わず曖昧な相槌をうった家康だったが、
それを肯定の意味と捉えて大谷は三成を家康の手へと差し出した。



「では三成のことは任せたぞ」



「ちょ、待ってくれ大谷殿!わしはまだ…アイタっ!!」



「ざんめつぅうう!!!」



大谷を追おうとした家康に、
その手に抱えられた三成が強烈な爪をお見舞いする。
気付いた時には大谷は店の奥へと戻り、その姿はどこにもなかった。


こうして突如三成を迎えることになった家康だったが、
その生活は最初から前途多難だった。

大谷の言う通り三成の気性は相当荒く、
家に帰ってからというもの、
三成はことあるごとに家康にむかって威嚇を繰り返していた。
唸る、噛む、引っ掻く
その攻撃は様々で、
毎度それをかわすのがここ最近の家康の日常となり、
そして今日もその攻防は続いていた。



「相変わらず手加減がないな三成は…」



痛む腕を押さえながら家康が一人つぶやく。
三成がここへ来てからというもの、
家康の腕や手には生傷が耐えない。
今も朝ごはんをやろうとして腕に一撃をくらったばかりである。

朝から晩まで続く慌ただしい生活、
今ではこれが家康の日常になっていた。
だが、そんな手荒な対応を受けながらも家康はこの銀色の猫を好いていたし、
なにより今まで一人だった部屋が三成を迎えたことで一変した。
家康にとってそれが何よりも嬉しかった。


ただ大谷に対する態度の一部でもいいから自分に懐いて欲しいという気持ちは拭えない。



「しかし、そんなことは無理だろうなぁ…」



そんな家康のため息が人知れず部屋に響いた。



***



その日の夜。

朝から淀んだ気配を見せていた空は、
夜になってとうとう雨空になった。
雨が降るに従って気温は下がり、家康が眠る頃には空気はすっかり冷えていた。
そんな寒さにふと家康が目を覚ました時だった。



「……?」



傍らに何か温かいものがあることに気づく。
柔らかな手触りのそれは人肌より少し高く、そして寝息を立てていた。



「み、三成!?」



ようやくその正体に気づいた家康が声をあげたが、
その声にも起きることなく三成は体を丸めて寝ている。
この寒さに暖を求めて来たのだろうが、
まさか自分の布団に潜り込むとは思わなかった家康にとっては大きな衝撃だった。


しかし最初こそ驚きはしたものの、
普段は見れない穏やかな寝顔に、
思わず三成の柔らかな毛並みをそっと撫でてみる。
触れた指先から感じるあたたかな温もりに、思わず家康の顔が綻んだ。



「…こんな思いが出来るなら、雨の日もそう悪くないかもしれないな」



明日になればいつもの調子に戻るだろう三成を前にして、
今はこの時間を堪能しようと心に決めた家康だった。






*Episode17へ続く?*

雨の日限定でデレる三成でした(笑)
設定としてはこの後家康はお館様の紹介で政宗の隣に越してきます。
ちなみに大谷さんの言う知人とはもちろん秀吉&半兵衛ですよ^^
今後出てくるかは全くもって不明ですが←←


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