場所:伊達家の玄関先。
「本っっっ当に大丈夫か幸村!?」
「ん!」
「もし何かあったら助けを呼べよ!」
「しょうち!」
「……あのさぁ旦那、…いい加減潔く見送ったら?」
「いつまで同じ問答を繰り返す気ですか政宗様…」
* * *
それから数分後。
場所:近所の商店街。
商店街の入り口にちんまりと、しかしやたらと張り切る幸村の姿があった。
目的は俗に言う「初めてのおつかい」。
そもそものきっかけは、伊達家で流れたテレビ番組によって始まった。
何気なくチャンネルを回していると、そこでやっていたのが「初めてのおつかい」。
そのままでいけば茶の間が和んでそれでお仕舞いのはずだった、
しかしそれは幸村の「やる!」の一言で一変することになる。
要は自分もおつかいをしてみたいという事。
その話に更に政宗が乗ってしまい、話は直ぐに実行に移されることになる。
ただし冒頭のやり取りで、出発は若干遅れることとなったが。
場面は戻って商店街。
初めてのお使いに張り切る幸村は目的の場所に向かいだしていた。
* * *
前田夫婦の営む魚屋の店先、
夫婦の甥っ子である慶次は、やりたくもない店番をやらされていた。
普段ならばこんなことは無視して出かけてしまうのだが、
今回は“あの”まつ姉ちゃんの頼みとあって断れない。
おかげで絶好の遊び日和というのに、慶次は店先で憂鬱な時間を過ごしていた。
「客も来ないし…退屈だよ全く」
そう言って慶次が大きく欠伸をした時だった。
「きゃん!」
どこからか犬の鳴き声が聞こえた。
最初はどこかの家で犬が吠えているのだと思っていたが、
どうもそれは近くで聞こえる。
「きゃん!!」
再び聞こえた鳴き声に慶次はあたりを見回す。
するとその声は自分の店の前から聞こえてくるのだった。
「あっれー?おかしいなぁ…」
その声につられて店先に出てみたが、声の主は見当たらない。
だが以前と犬の鳴く声は聞こえる。
あまりの退屈さにボケ始めたかと疑い始めた慶次だったが、
ふと店先の陳列棚から、子犬の小さな前足が見え隠れしているのに気付いた。
「もしかしなくても…これの声か?」
慶次の覗き込んだ先では、幸村が思いっきり背伸びをして商品を見ようと試みていた。
しかしその背では勿論届くはずもなく、
傍からはただ棚にへばり付いているようにしか見えなかった。
「どうした?うちに買い物に来たとかか?」
よく見ると伸ばした前足の片方には小銭があった。
それを見た慶次はもしかして、と幸村に声をかける。
「!!!」
その瞬間に頭上から声をかけられた幸村が耳を立てる。
そしてまるでその通りだと言わんばかりに尻尾を嬉しげに振ってみせた。
「おつかい!!」
「お、やっぱりそうかぁ!」
尻尾を振って答える幸村に慶次の声も自然と弾む。
「おチビさん、名前はなんていうんだい?」
「ゆきむらー」
「そうか、お使いなんて偉いな幸村、こんなちっさなお客さんは初めてだよ」
まるで店先の世間話のように会話が弾む。
もっとも話し相手は片言を話す子犬という面妖な光景ではあったが、
不思議と二人の会話は弾んでいた。
「で、今日は何を買いに来たんだ?」
ひとしきり話し終えると慶次が尋ねた。
「まぐろ!」
尋ねられた幸村がすぐに答えを返す。
「お、マグロか!今日はいいのが入ってるんだ」
それを聞いた慶次が得意げに胸を張った。
* * *
「じゃあこれお釣りと品物な」
奥から出てきた慶次が品物とつり銭をそれぞれ幸村に手渡す。
渡されたそれを幸村は尻尾を振りながら、嬉々としてそれを受け取った。
その様子に思わず慶次も顔を綻ばせる。
「にしても…ちょっと幸村には重いかな、大丈夫か?」
手渡してはみたものの、あまりにも幸村の体格と不釣合いな荷物に幾分不安を覚える。
逆に荷物に引きずられているようだと幸村を見ていた慶次だったが、
ふと視線を移した先に何かを見つけて安堵の表情を浮かべた。
「どうやら大丈夫みたいだぞ、幸村」
「??」
小首を傾げる幸村に、慶次は指先で幸村の後方を指差す。
「迎えがちゃんと来てるみたいだしさ」
そう言って吹き出す慶次の視線の先には、
電信柱の影から様子を窺う眼帯の男の姿があった。
*Episode7へ続く?*
筆頭が日に日に変になってきます、ゴメンナサイ(笑)
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