「そういや竜の旦那さぁ…」



ある時ふと佐助がこぼした一言。
その一言が今回の幸村の運命を決定した。




***




「ふーん、ここがそうか」



小脇に幸村を抱えた政宗が着いた先、そこは近所の動物病院だった。



「それにしても予防注射とは盲点だったな…」



“幸村ってまだ予防注射に連れて行ってないんじゃない?”
先刻の佐助の言葉を思い出して政宗が呟く。
実のところ政宗だけでなく、その場にいた誰もがその事をすっかり失念していた。

幸村は家の前にいたところを拾われた、元は野良犬なのだから、
子犬としてしかるべき処置をされていないのも考えれば当然のことだった。



「shit、俺としたことが迂闊だったぜ」



「ましゃむねー」



一人こぼす政宗に応えるかのように、傍らの幸村が小さく声をあげる。
それにしても連れてきたはいいが、
初めて体験する病院というものに幸村がどんな反応を見せるのか。
何とも言えない不安が頭をよぎる。



「OK、こうなったら出たとこ勝負だ!」



そんな不安要素を抱えながらも、
結局のところその門をくぐるしか選択肢はないのだった。




***




「…で、何でアンタがここにいるんだよ」



「それはこちらの台詞だ!」



病院の待合室。
そこにいた人物を見たと同時に、政宗の表情が歪んだ。

受付で政宗と出迎えたのはこの医院のスタッフであり、
政宗と同じ大学に通うかすが。
お互いこんなところで知り合いに会うとは予想しておらず、
待合室には妙な雰囲気が漂った。



「それで、一体何をしに来た?」



「そりゃ診察に来たに決まってるだろうが…コイツのな」



「コイツ?」



かすがの問いに、政宗が腕に抱えた幸村を目の前に差し出す。
見下ろすかすがと、それを見上げる幸村の眼。
互いの視線が合わさった瞬間、
それまでとは一変した空気が流れるのを政宗は瞬時に感じた。



「か、かわいい…!主人はこんなに憎たらしいのに…」



「アンタなぁ誉めるのか貶すのか、どっちかにしろよ…」



そんな二人と一匹のやりとりが続く待合室。
その空気を変えるかのように診察室の扉が開いた。



「おや、なにやらにぎやかですね」



出てきたのは何やら麗しい空気を醸し出す医師。
その一種独特な雰囲気に、それまでの空気は見事に一変した。






*Episode10へ続く*

上杉軍の登場です(笑)
キリが悪いのでこんなところで切ってしまいましたが、
いわずもがな次はあのお方が出てくる!はずです←

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