色町に夜が訪れる。
町に灯りが灯ると、
桜はその薄紅の姿を再び浮かび上がらせた。
昼間とは違った様を見せる桜の花、
それはまるで夜の帳を縁取る刺繍のように、色町を彩っていた。
***
夜になり、店は夜見世の営業が始まる。
昼の賑わいにも劣らぬ、夜見世の華やぎ。
色町を訪れた者達は、誰もがご贔屓の愛しい娼妓との時間を心ゆくまで楽しむ、
そのはずだった。
昼間の宴は、遊客が大層な資産持ちということもあり、
絢爛豪華なものだった。
しかしその盛大さ故になかなか宴席は御開きにはならず、
更に御大尽にありがちな強引さも相まって、
宴の時間は大いに引き延ばされることとなった。
そんなこともあって、その日元就が郭に戻ってきたのは、
夜見世も始まって幾らか経ってからだった。
元就が自室へ戻ると、
昼間陽が差していたそこは薄暗く、
行灯が辺りをぼんやりと照らしていた。
「よぉ、遅かったじゃねぇか」
そこには既に訪れていた「来客」の姿。
居間に座したその姿を見届けると、元就は小さく息をついた。
元親が待たされたからといって帰るような男ではないのは百も承知だったが、
元就自身見世の始まりにここまで遅れて来たことはなく、
さすがに気が咎めるところがあったのだろう、
「すまない…少し遅れた」
思わず詫びの言葉が口をついて出ていた。
「なんだ?珍しいなアンタがそんな殊勝だと」
滅多に見ない元就の姿に、
元親がからかい半分に驚いてみせる。
普段から矜持の固まりのような元就を見ているだけあって、
それほどまでに今の元就の姿は珍しいものだった。
「別に気にしてないぜ、…忙しい時期だそんなこともあるだろうさ」
「そうはいかぬ、見世に遅れるなど我の娼妓としての沽券に関わる」
「ははっ、そういうとこは相変わらずだな」
しかしそんな珍しさもわずか一瞬、
あくまでも元就らしいその言葉に笑いながら、
元親が傍らの盃を手に取った。
「さて、それじゃ宴の始まりといくか」
元親の掌中で朱塗りの盃の縁が、
開け放たれた欄干の隙間から上った月の明かりを受けて光る。
それは郭に本格的な夜の訪れを知らせる淡い光、
「…そうだな、始めるとしよう」
その光を瞳に映して静かに元就が口を開く。
それを始まりの鴇とするかのように、
数刻遅れで二人の宴は始まった。
***
夜の波間を共に行けば、
互いの姿は見えず、
暗闇には波音が響くばかり。
今宵、二人の行方を知るものは誰もいない。
*3へ続く*
ものすごい中途半端なところで切ってしまった!(苦笑
ってことで何も起こらないまま次へいきます←←
これまた気長にお待ちをー。
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