襖の隙から穏やかな風が流れる。
同時にこぼれ出でそうな陽光が辺りを包んでいた。

誰しにも等しく訪れる朝は色町にもやってくる。
だが一日の始まりであるそれは、
ここでは会瀬の終わりでもあった。



「折角会えたと思えばもうお開きか…」



「仕方がなかろう、時間は時間だ」



渋りながら身支度を整える元親の横で、
早くに羽織を着終えていた元就が淡々と答えた。

忙しなく過ぎてしまう色町の朝は短い。
名残を惜しむまもなく一夜限りの会瀬は終わる。



「次に会えるのは、三日後か」



「そうだな」



そんな言葉も既に数えきれぬほど交わしてきた。
しかしその約束が、「ここ」では何より確かなものになると娼妓たちは言う。
それは自身にとっても例外ではないのだろう、
そう元就が思えたのはこれが初めてのことだった。



「それじゃ元就、またな」



そう言って笑う元親の髪を風が揺らす。

こうしてまた来る別れの朝。
幾度も来た朝がいつもと違う景色に見えたのは、
霞む春の風が見せた幻影だろうか。





春の風が吹く。
桜の花が、一時の別れを飾るかのように咲き誇っていた。






*完*

これで「春嵐に揺れる」は完結です!
にしても最後はものすごい短文でスミマセン、
でもこれどうしても入れたかったんです(笑)
ここまでお付き合いくださり本当にありがとうございました!

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