花の姿は移り変わる。
時によって姿を変えるそれは、
目まぐるしくもあり、また美しく。


只いつも変わらないのは、
その 芳しい 香り


明け方。
秋に咲くその花は庭の一隅で咲き誇っていた。
秋の冷涼な空の下、朝陽に照らされて黄色の花弁が光る、
まだ仄明かりの冷えた朝の空気に、その黄色は凛と冴えていた。

指先に触れるそれから鮮やかに香りが伝わる。
その香りと姿に目を止めていると、後ろから声が投げかけられた。



「へぇ、もうそれの咲く季節か」


「…元親か」



庭に面した廊下からの声。
振り向くことなく答えれば、その声の主は傍らに歩み寄って来た。



「こんな朝っぱらから花見か?」


「まさか、朝日を拝みにきただけだ」


「ふーん、まぁどっちにしろ随分と早起きなこった」



庭に佇む二人の間に朝の空気が流れる。
秋になり涼しさを増した穏やかな風がお互いの首筋を撫でていた。



「なら次はこのまま朝の散歩でもどうよ?」



次第に明るさを増していく朝陽に照らされながら、
傍らの男が抜けるような笑みを浮かべる。



「ふん、誰がお前なぞと」


「あ、おい待てって元就」



その笑顔を素通りした去り際、
目の端に映った花弁は、
日の出と共に秋の訪れを告げるような鮮やかな色だった。



* * *



夕暮れ時。
秋の陽は傾くのが早い。
彼方に沈む夕陽を眺めながら、ふと再び庭の一隅に目を遣る。
庭に咲き誇る花たちが、
次第に陰る日差しに、徐々にその姿を薄れさせていた。

黄昏に染まり、そして次第に夜に飲まれる。
そんな花が織り成す姿を只黙って見つめていた。

陽が傾き薄暗くなる庭、
一人の佇む影が映るそこにもう一つ影が増える。



「また日輪か?」



それと同時に聞こえたのは僅かに揶揄するような声。
声の主はやはり明け方のそれと同じ者だった。



「朝も夕も、毎度飽きないもんだな」


「ふん、貴様にはわからぬことよ」



振り向けばその声の主の姿も薄暗がりに紛れるほどに、陽が傾いているのを悟る。



「本当に日が暮れるのが早ぇなこの時期は」


「……」


「暗くなる前にもう一度花を見ておこうと思ったが…」



肩越しに近付くその姿を見やる。
傍らで花びらに手を伸ばす姿、
だがその花も指も既に夕闇の中にあった。



「どうやら一足遅かったみてぇだな」


「…そのようだな」



陽が落ち冷たさを増した風が吹く。
風に吹かれ緩やかに舞う髪を押さえた刹那、


ふと自身の背中に手が回されたのを感じた。



「……っ何を」



回された腕は目の前の男のもので、
その腕に身体は引き寄せられる。



「さっきからずっと此処に立ってたろ?」



頭上に降る言葉に、つい声を荒げる機会を失う。



「…それがどうした」


「そっか、だからか」


「……?」




「アンタからも花の香りがする、」




明るく響く声、
夕闇に紛れてわからなかったが、
見上げたその顔はきっとまた笑っているのだろう。

それを考えると何故だか無性に癇に障った。



「これだけでも随分と役得だな、」


「またくだらぬ事を…」



夕闇の中に二人。

衣越しに伝わる温もりを感じながら、
漂う花の香りに目を閉じる。


その香りは変わることなく、
ただひたすら芳しかった。








季節はずれでゴメンなさいorz
花は一応小菊をイメージして書いてます。
タイトルは中原中也氏の詩から引用。

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