それは空の月のように蠱惑的な色


全てを吸い込むような、色。




*         *         *




舞い踊る人々
煌めく灯り


華やかさを極めた広間は、夜という時間を忘れたかのように色めきたっていた。
その明るさから逃れるように一人、夜闇に臨むテラスに立つ白髪の少年。
暗闇に月の淡い明かりが浮かぶ。
広間のきらびやかな光を背に彼はそれを見上げていた。
このような社交場は元来性に合わず、
夜会に招かれてもきまってこの場所で時間が過ぎるのを待つのが常だった。


華美に着飾り、人々はどこかその華麗さの裏に虚構を混ぜ合わせて踊る。
シャンデリアの下照らし出されたこの虚にはどこか馴染まず、
それよりも自分には淡い月明かりの光が相応しいように思えた。



そうやって今日も時が過ぎていくはずだった。



彼の静寂を破る者が来るまでは。




「こんなところに一人で何を?」




現れたのは、夜会服に身を包んだ男。
灰褐色の肌に黒の夜会服という、闇を纏ったような姿は社交場という雰囲気にはどこか異なるものだった。

しかしその中でも目を引くのは男の瞳。
黄色に妖しげに光る双眸が彼の目をひきつけてやまなかった。




「広間は賑わってるっていうのに、随分と物好きもいたもんだ」




「…あなたには関係のないことでしょう」




突然現れた男に戸惑いながらも、少年は言葉を返す。
黒に身を包んだ男は余裕げに笑みを浮かべながら少年へと歩む。




「ま、そりゃそうだけどな」




一歩ずつゆっくりと男は足を進める。




「けどこんな場所に一人でいられると気になるってもんだけど?」


また一歩、
冷たいテラスの床に乾いた靴音が響く。



「放って置いて下さい、ああいう場所が性に合わないだけです」



ちょうどその時男が少年の眼前に止まった。
自分を見下ろす男の眼を少年は見据える。

まるでその金色に捕らわれたかのように




「まぁでも、わからないでもないけど」




「………」




男が空を仰ぎ見る。




「あんなド派手な明かりよりもこっちの方がよっぽどいいかもな」




男が見上げた先の月を、少年も仰いだ。
空に浮かぶ月、今宵は満月。
普段よりも一層輝きを増した月明かりがテラスに佇む二人に差し込んだ。




「ところで、少年」




再び互いの目が合う。
瞳が合った瞬間、男がふ、と笑みを浮かべた。




「一曲お付き合い頂けるかな?」




そう言って男は頭を下げ恭しく手を差し出した。
差し出された手に、少年は戸惑いを見せる。




「別に広間で、とは言わないぜ」




手を差し伸べたまま、 余裕げな微笑を崩すことなく男は尚も続ける。




「ダンスフロアと照明、此処なら充分揃ってるからな」




「………」




合わせた視線を少年はずっと離せずにいた。
月下に佇む二人の背後には、広間から流れるワルツが微かに聞こえていた。




「さぁ少年、」




再び男が口を開く。
先刻よりも声を低めて、慇懃に。




「答えを、聞かせて頂けますか?」




*         *         *






月明かりの下、二つの影が舞う。
何故その手を取ったのか、
男の誘いを受け入れたことに、少年自身も驚いていた。







只一つ、




考えられるとするならば、




それは、
彼の、月に似た瞳の所為だったのかもしれない。






*終*
もんのっすごいパラレルでした!
ティキアレにこういうことさせたかっただけです、特に深い意味はない一品。
あと別に続きません、あしからず。

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