目の前に広がるは、大海。
低い囁きのような波音が耳を擽る。
足元には春の穏やかな波が素足に触れていた。
寄せては返す波。
その波の行き来を見据えながら、
波打ち際に立った足に伝わる感覚に身を委ねる。
足首を包み込むようにして波が跳ね、
引き際再びその足を撫でては去っていく。
大きく、小さく
寄り来ては去る形に違いはあれど、
全ての波が等しく持つものは変わらない。
波が去り際に残していくあたたかな温もり。
その不思議な心地良さが、今の我の全てだった。
「おい、そろそろ戻ろうぜ」
風に乗って声が聞こえる。
その先には潮風に髪をなびかせる男の姿があった。
「…今行く」
そう言ってその元へと歩き出す。
穏やかな風の中。
広がるは大海。
寄せては返す春の海は、
どこまでもこの男に似ている温かな海だった。
終
だいぶ雰囲気SSです、悪しからず;
ナリは美脚だなーと思ってたら書いてました(笑)
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