「ほらリンク、早くして下さいよ」



「…本気ですかウォーカー」



先程からずっと続くこのやり取り。
逃げ場のない今の状況に、リンクは只々動揺していた。




「チェックメイト!」



音を立てて聳える駒。
誇らしげに叫んだアレンの声がゲームの終わりを告げる。


そもそもの発端はこのワンゲームだった。
普段は必ずと言っていいほど、チェスでアレンはリンクに勝てない。
アレンが極端に弱いのかリンクが強いせいなのか。それは定かではないが、
兎も角これまでの戦績はリンクの連勝に終わっていた。


だがここにきて勝利の合図を告げたのはアレンの方だった。
予期せぬ事態にリンクは思わず盤上を凝視する。
だが確かに盤上の駒はアレンの勝利を示していた。

今日は体調でも悪いのか、

思わず自分の体を心配してしまう。
それほどアレンの勝利は珍しいものだったし、
少なからずチェスに自信のあるリンクにとっても驚くべきことだった。



「それじゃ、約束は守ってもらいますよ」



「……は?」



一人自問自答するなか、アレンの一声がそれを遮る。
突然の事に些かまぬけな声を出したリンクに、
何かを企むようなアレンの笑顔が近づいた。



「初勝利の記念に、キスして下さい」



「………!!!?」



その発言に、声にならない叫びがこだまする。
思考が停止したままでリンクは、目の前のアレンを見ていた。



「な、なぜ私がそんなことを…!」



「勝ったら何でも言うことをきくっていう約束でしょう?」



そう言われて気付く。
確かにゲームが始まる前、彼がそう言っていた気がすることに。
だがそれを今の今まで忘れていた訳は、



「…もしや自分が負ける筈ないと思って聞き流したとか」



そう、まるで鷹をくくっていたのだ。
それは全くの誤算だった。
まさかこんな風に負けて、こんな要求をされるとは。



「他の事ならともかく、よりによって…」



「普段リンクが積極的じゃないのがいけないんですよ」



こういう状況に持っていけば少しはのってくるかなと思って。
そう言い放つアレンの顔は少しも悪びれたところがなく、
その目はまっすぐにリンクを見つめていた。


絶対絶命、動揺した脳裏にそんな言葉が浮かぶ。
目の前でこんな風な顔をされては、誰だって気持ちが揺らがない訳がない。
だが色恋事に疎いリンクにとって、事はそう簡単に済むはずもないのもまた事実だった。







「…どうしてもですか」



「どうしてもです」



じりじりと身を寄せるアレンにリンクが尋ねる。
あまり近づいては聞こえてしまうのではないか。
それくらいに自分の鼓動が激しいのをリンクは感じていた。



「…わかりました」



こうなっては仕方がない。
近付く顔にリンクも心を決めた。
腕を引いてアレンの体を抱き止めると、そっと口付けを落とす。



ただし唇ではなく、額に。



「………これだけですか?」



一瞬ぽかんとした顔のアレンだったが、すぐに不満げに眉を上げる。
まるでお菓子が足りないと文句を言う子供のように。



「ゲームの褒賞としてはこれで充分しょう」



我ながら苦し紛れだとは思ったが、
今のリンクにはそれが精一杯の答えだった。
おそらくこれ以上の事は心臓がもちそうにないだろう。


それを察してか、アレンは仕方ないというように苦笑する。
リンクの性格を考えれば当然のことだったし、
その彼らしさがアレンには微笑ましかった。


だから今はただ一言、





「いいですよ、その代わりもう一度お願いします」



そうして目を閉じて、
二度目の口付けを額に感じるのを待っていた。







(Fin)

アレ→リンっぽいですけどちゃんとリンアレです(笑)
ヘタレでなかなかポジティブじゃないリンクが好みだったりします。

にしても前回もこういうハプニング的なキスシーンを書いたような…
今度はちゃんと合意のうえで持っていきたいと思います(笑)←



ブラウザバックでお戻り下さい。