砂糖菓子のように甘い人生などない、
    日々は安定とトラブルの繰り返しなのだ。



    どこからか抜き出したようなありきたりな格言。
    ならば今はそのトラブルの時だと、目の前のドアを見ながら心中で呟いた。



    「…全く、またですか」



    目の前に立ちはだかるのはヒビの入った浴室のドア。
    後で修理を頼むはめになるのかと人知れずため息を吐きながら、
    ドアの向こう側に姿を隠す彼に言葉をかけた。



    「いい加減、出てきたらどうですウォーカー」



    向こう側から返事はない。

    さっきから何度言葉をかけても帰ってくるのは沈黙ばかりだ。
    時々ほんの些細なことから始まる口喧嘩。
    その度に籠城を決め込まれ、
    更にドアを壊されるのだから、正直たまったものではない。


    今度もちゃんと修理費は教団で出るのだろうか、
    いつまでも出てこない彼を待ちながらそんなことを考えている。
    この状況下で妙に落ち着いた思考でいるのは、
    やはりこの光景が日常茶飯事と化しているからなのか。

    そんな慣れきってしまっている自分に今度はため息が出た。



    「いつまでもそうしている訳にはいかないでしょう」



    だがやはり返事はない。

    全く、時折彼の見せるこの妙な頑固さにはいつも頭を悩まされる。
    そんな訳で何を言っても沈黙を返される始末。
    このままでは埒があきやしない。


    こうなったら先に折れることが最良、
    そう考えた頭はいつものように懐柔策をとることを決めた。



    「…今月のスイーツの新作、それで機嫌を直しませんか」



    その言葉にドアの向こうの沈黙が、少し変わったような気がした。
    毎度毎度餌で釣っているようで、我ながら複雑な心境なのだが、
    逆立った神経には甘いものと言うように、
    この方法は彼には効果てきめんだった。



    「…いっぱい作ってくれなきゃ嫌ですからね」



    その証拠に扉の向こうから聞こえてくる、微かだが確かな声。



    「はいはい、わかってますよ」



    少しばつが悪そうなその声に、
    苦笑いしそうな気持ちを抑えて、一言そう答えた。





    そうして、
    安定を呼び戻す甘い妙薬が、扉を開く。







    (Fin)
    love potion=恋の妙薬

    本誌の左手でドアを閉めるネタを混ぜつつ、リンアレにぷち喧嘩をしてもらいました←
    書いといてなんですがこの二人ってケンカするんだろうか?
    しても多分オヤツを食べられたとかそんな理由かと(笑)



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