「幸村、お前にやるぜ」

「・・・・これは?」

「アンタへの土産だ」



今日もこの男は色町へと足を運び入れた。
夜も華やぐ色町に頻繁に訪れる政宗の姿は、最早この界隈では馴染みとなっていた。
名家の出である政宗は、その富裕もあってか三日とあげず遊郭の敷居をまたぐ。
時には、あまりの入れ込みようを諫める屋敷の者の目をかいくぐってここへ来ることも少なくない。
そうまでして彼をここへ向かわせるのは、ひとえに娼妓の一人、幸村の存在だった。


今日の政宗は土産を携えてやってきた。


「土産・・・某にでござるか?」


「他に誰に持ってくるっていうんだよ、間違いなくアンタへの土産だぜ」


そう言って政宗は幸村の手のひらにそれを置く。
幸村の両の手のひらには、そこに収まる程の小さな包みが置かれていた。
桜色に染め抜かれ、色鮮やかな絵が施された和紙の包み。
赤い紐で結わえられたその包みは、それ自体がまるで芸術品あるかのように意匠を凝らしたものだった。
その鮮やかさに幸村は目を奪われ、手のひらのそれをじっと見つめる。


「開けてみろよ」


そう政宗に促され、幸村は丁寧に結わえあげられた紐をそっと解きはじめる。
幸村の指が一つまた一つと触れる度に、桜色の包みは本物の花のようにその花弁を開いた。
ゆっくりと開かれたその包みの中には、淡い色をした干菓子が入っていた。

まるで花弁をかたどったような小さな干菓子。

甘いものを好む幸村にとって、これはこの上ない土産物に違いなく、
中を見た瞬間、幸村は目を輝かせ顔をほころばせた。


「これを某に・・・!?」


「ああ、そうだ」


その干菓子の美しさにしばらく目を離せないでいた幸村だったが、ふと感極まったように、子供のような無邪気な瞳で政宗を見上げた。


「こんな素晴らしいものを頂戴するとは・・・この幸村感激にござります!」


「おいおい、ちっと大袈裟すぎねぇか」


まるで大層なものでも貰ったように口ぶりの幸村に、政宗は苦笑する。
しかしこんなに喜んでもらえるのならば、わざわざ老舗に赴いて用意させた甲斐があったというものだ。


「どうやら気に入ったようだな」


「はい!勿論にございます」


嬉しげに頷く幸村に、政宗も自然と口の端をあげて笑う。


「なら早速食ってみろよ。老舗の銘菓だ、美味いはずだぜ」


しかし食ってみろと勧めた途端、幸村は急にその笑顔を戸惑いの表情に変えた。


「・・・どうした?」


大の甘党の幸村が菓子に手をつけずに躊躇するのを見て、政宗は怪訝な顔を向ける。


「できませぬ。折角政宗殿に頂いたのに、勿体無くて・・・・」


「おいおい、食い物なのに食わなくてどうするんだよ」


「しかし・・・」


勿体無いと繰り返す幸村に政宗は苦笑を禁じ得ない。
甘いものならば日にいくらでも入るという普段の幸村からはとても想像がつかない。
たかだが土産一つに大層な恐縮ぶりだと少し呆れもするが、
しかし同時にそのいじらしさが政宗のこころをくすぐる。

政宗は思いついたように花弁の干菓子を一つつまみ上げると、
それを口に咥え幸村の口を自らの唇で塞いだ。
全ては一瞬の出来事。
顎を持ち上げられ唇を塞がれ、幸村は目を見開く。
そんな幸村をよそに、政宗は口に含んだ干菓子を幸村の口内へと移した。

ふわりと溶ける甘い桜の花。
春の風に舞う花びらのようにそれは淡く消えていく。

その甘さに一瞬幸村は酔いしれるが、立ち所に我に返ると自らに起きた事態を悟った。


「・・・っ!!!ま、ままま政宗殿!!!!」


狼狽する幸村の顔は一瞬にして赤くなる。
同時に幸村を覗き込む政宗と視線が合わさり、今度は慌てて顔を伏せた。


「どうだ、美味かっただろ?」


そう尋ねる政宗の声は心底愉快そうだった。


「あ、味など・・・あまりにも驚きすぎて覚えておりませぬ・・・!」


「そうか、そいつぁ残念。ならもう一度やってみるか?」


「政宗殿!!!」


あまりの羞恥に声を荒げた幸村を、政宗はすかさず宥めすかした。


見ていて飽きないとは正にこのことだ。
まるで花を愛でるように
その愛しさは尽きることがない。






ダテサナはバカップルですというお話。
背景の写真もしかしたら桜じゃないかもしれない、すいません(爆)
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