「…一体何処へ連れて行く気だ」
「着いてくりゃわかる、あともう少しだ」
"薄紅の空の下に"
半刻前。
良いものを見せてやるよと、土佐を訪れるなりそう言われた元就は、
その手を元親に引かれ、半ば強引に外へと連れ出された。
そして今瀬戸内の海を臨む細く続く坂道、
そこに二人の姿はあった。
「聞いているのか、放せと言っている」
「そうは言っても初めての場所じゃ道がわからねぇだろ?」
「だからといって手を引く理由にはなるまい」
「まぁまぁいいから」
「良くなどない、貴様人の話を聞いているのか」
波の音が響き、全てがゆっくりと流れる穏やかな春の時の中、
二人は緩やかな坂を登る。
その春の陽気とは裏腹に苛立ちを含んだ元就に、
元親は動じることなく、只満面の笑顔を浮かべていた。
「いい加減に放さぬか…っ」
坂道も終わりに差し掛かる。
歩き続ける元親に痺れを切らした元就が手を振り払おうとした時、
不意に元親がその歩みを止め振り向いた。
「さぁ、着いたぜ」
朗らかに笑う元親の背後、
そこに続くのはどこまでも広がる薄紅の色、
桜の大木が花をつけ悠然と佇んでいた。
「…桜?」
「そう、知る人ぞ知る名所ってやつでね」
舞い散る花びらを元就が掬い上げる。
一つ二つと舞うそれは青空に映えてより輝いた。
そして見上げるその先は、薄紅の空、
地上の二人を覆う無限の空にその目は惹き付けられた。
「さすがのお前さんでも風流を感じる心くらいはあるだろ?」
「ふん、…まぁ悪くはない」
「そりゃどういたしまして」
「誉めたのは桜だ、別に貴様ではない」
「はは、相変わらずつれねぇ奴」
裏腹な態度の元就に、元親が苦笑する。
薄紅の空の下、穏やかな時間が二人の間に訪れていた。
終
桜の季節なんで書いてみた。
あと2人に手を繋がせてみたかったという(笑)
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