暗がりの中に、今はもう亡き男達の骨が横たわる。
もの言わぬ骸、
しかしその眼窩はここで明らかにされる真実を見据えていた。



鳴り響く剣の鈴の音に合わせ、ある女の情念の物語が語られる。



「…ねぇ、私と一緒になってくれはる?」



今より昔、
今も昔も変わらぬ宴の喧騒が響き、町の明かりが灯る中。
女は愛しい男に寄り添って囁いた。






享楽の時を過ごし、仮初めの睦言を紡ぐ遊里、
しかしそんな中でも女達は真の愛を夢見ていた。


いつかは愛しい只一人の男のものに。


それだけを夢見、勤めをこなすことだけが日々の心の糧。
そうして見事男の心を射止めた者は、
一人、また一人と身請けされていく。


幸福そうな表情でこの仮初めの世界を出ていく女達を、
女は只立ち尽くし、廓から見つめていた。



「私と一緒になってくれはる?」



そう聞くたびに頷く男達。
所詮は飾りに過ぎないその言葉を、女は男の腕の中で聞いていた。
いつしか心は砕かれ、その身が朽ちるまで尚。




そうして彼女は物の怪となった。
華やかさの裏に影を含んだ世界の中で、
只ひたすら男を喰らう物の怪に。




*       *       *




「…ねぇ、私と…一緒になってくれはる?」



そう問い続ける女を薬売りは見据えていた。



「…華やかさの中に生まれし物の怪、家鳴り」



「その理を得たり、」



何処までも続く暗闇の中に、剣の音が反響する。
斬り様に薬売りが見た女は、ひたすらにその朽ちた手を伸ばし続けていた。




その最期まで自分を愛してくれる者を探すかのように。






>>>六
思ったより書いたら短くなった…
あっれーおかしいな(笑)