農夫はその日実に奇妙な遭遇を果たした。
山深く、人も滅多に訪れぬような辺境にその村はある。
家屋がまばらに並ぶその村は、深々と降り積もる雪にみまわれていた。
元来人も少ない村に雪の舞う音だけが響き、この村の静けさを一層強めていた。
事はそんな冬の日に起こった。
* * *
村のほぼ中央に位置する家屋。
そこで数ヵ月に一度執り行われる寄合の為、農夫は雪の中を歩いていた。
さく、
さく、と
白い雪の面に足跡が刻まれる。
その他には一点の曇りもない白色。
村を覆いつくす白をひたすらに見つめ、
農夫はただ無言で歩みを進め屋敷に辿り着いた。
寄合にはまだ幾分早い時分、
少々早く来過ぎたと内心で感じながら重い戸を開けた、
その時だった。
その「先客」の存在に気づいたのは。
「少し、お邪魔して…いますよ」
まだ誰もいないと思っていた屋敷の中、
聞こえたのは見知らぬ男の声。
「誰だ、お前は…?」
明かりの薄く灯った部屋から、
一人片隅に座った人影が面を上げる。
「只の…薬売りですよ」
それは村人の誰でもなく、
妖しげな雰囲気を身に纏った男だった。
>>>弐
登場したところなのに続く。