辺りの冷たい空気を切り裂くように響く絶叫。
農夫は自分の見たものに只叫ぶしか術がなかった。
自分を除く村人の大半が彼の目の前で一瞬にして消え失せた。
それも人の身体が水面の氷のようにいとも簡単に砕かれて。
脳裏にこびりついて離れぬその光景を振り払うかのように、
農夫は頭を振り乱し悲鳴をあげつづけた。
「どうして…ありえるはずがないこんなこと…っ!!!!!!」
まやかしだ幻術だと、どんなに心を鎮めようとしてもそれは徒労に終わる。
目の前で起こったことは確かに現実だったのだから。
「どういうことなんだ…一体…なぁアンタ!!」
未だ震える体を必死に全身で支え、農夫は薬売りに詰め寄る。
「私、ですか?」
その場に座したままで薬売りが面を上げる。
「…私は、只の通りすがりに過ぎませんから…」
表情を変えることなく、薬売りが答える。
その間に農夫は薬売りに詰め寄り、彼の襟元をきつく掴んで引き寄せた。
「通りすがりだと…」
絞り出すような農夫の声。
「ありえない…」
吐き出されたその言葉は止まることを知らず、とめどなく溢れ続ける。
「あんな簡単に人が砕け散るなんて!!!人間が…まるで枯れ枝みたいに…っ!」
「それもこれもお前が此処に来てからだ…」
農夫の震える声は着実に音量を増していく。
「答えろ!何故そんな平然としていられる!!」
「お前はやはり何か知ってるんだろ!…ああ、そうかそれともこれはお前の仕業なのか…っ!!?
お前がお前がお前がっ!!」
農夫は只ひたすらに言葉を吐き続けた。
やり場のない怒りを
未知の恐怖を振り払いたいが為に。
「………」
農夫の荒い息だけが響き、冷えた空気の中恐ろしいほどの静寂が訪れる。
「……これは、物の怪の仕業ですよ」
ふいに薬売りが口を開く。
その表情は未だ薄笑いを崩さぬままだったが、
その笑みが背負う雰囲気にどこか変化が訪れた、
混乱した頭の中、農夫はそう感じていた。
「物の怪…だと?」
聞き慣れぬ言葉に、薬売りの襟元を掴む農夫の手が緩められる。
「…何かがこの村には存在する」
ドクン、と
心臓の鼓動が響く。
農夫の顔に動揺が走ったのを薬売りは見逃さなかった。
「そしてこの村に対して何らかの念を抱いている」
「それが怨みか」
「怒りか」
「悲しみであるかは…」
「それは貴方がご存知のはずですよ…」
>>>四
そういえば座りっぱなしの薬売り。