世界は私を裏切った。
あの痛みを
あの苦しみを
あの日のことは今でも鮮明に覚えている。
打ち捨てられた自身の骸に降る雪と共に、
溶けることのない、念という雪が心に深々と降り積もる。
思い出すのは、過ぎ去りし過去
男達の罵声に
女達の金切り声
中心に立つ標的である私。
男も女もない、
昨日までは親しげに話していた隣人や友人までもが
その輪に加わる。
人が狂っていく瞬間を
同時に私の生の終わる時を
物言わぬ骸へと変わる時を
一度に見た、あの時。
* * *
「…そうしてお前は物の怪となった」
私は、物の怪に。
「世界を、この村全てを呪った」
許せなかった。
私を裏切り、
何事もなかったように回っている世界が。
「それが、お前の…理」
それが、私の理。
只々白い世界の中立ち尽くす私の背後に聞こえる、
カチンという金属の響く音と、
雪を踏みしめる足音。
それは再び訪れたこの世からの消失。
「剣を…解き、放つ!」
雪原に谺する声。
吹雪と男の近づく気配を耳に感じながら、
そして私は目を閉じた。
* * *
そして今、
憎むべき世界は消え果て、最早この世に望むことは何もない。
だが、しかし
一つだけ今際(いまわ)に望むこと。
それは――
>>>七
やっぱり薬売りがほぼ不在。